実質ミシシッピー殺人事件(大嘘)『Return of the Obra Dinn』を勧める記事

あっ!!! せんせい!!!

f:id:y_tsukinari:20200204002719p:plain
ラブレターですかね。

推理系アドベンチャーゲームというジャンルはそれほど新しいジャンルでもなく、ファミリーコンピュータの頃にはもう『ポートピア連続殺人事件』『さんまの名探偵』『ファミコン探偵倶楽部シリーズ』といった名の知れたゲームが数々生まれている。とはいえこのジャンルに分類される全てのゲームが推理ゲームとして高い評価を得てきたわけでは別になく、名作、いや迷作と呼ばれるゲームもそこには存在する。『ミシシッピー殺人事件』とか。

つまり、このジャンルはそこそこ"大体のことをやってきた"はずだと言えるのだが、ここ最近でも様々な推理系アドベンチャーゲームが目新しいシステムや魅力的なシナリオを引っ提げてリリースされ続けている。白状するが、筆者は別にそれほどこのジャンルのゲームをやってきたわけではない。興味が無いわけではないのだが、あまり手を付けないジャンルというだけである。ただそんな筆者でも「これをプレイせずに人生を終えなくてよかった……」と感じたゲームがあった。

『Return of the Obra Dinn』である。

en.wikipedia.org

store.steampowered.com

ec.nintendo.com

ミシシッピー殺人事件同様船の上で推理をするゲームである。つまりこれは実質ミシシッピー殺人事件なのだ。

ファーストインプレッションは「グラフィックがレトロな感じだなー」くらいの軽い気持ちだった。Steamのストアページやゲーム系メディアの紹介ページ等を見た後も正直なところ「面白そうだな」程度の評価だったし、Steamをよく使っているフォロワーも面白いと勧めてくれたこともあってSteamのウィッシュリストにとりあえず突っ込んでたらセールが来たのでじゃあ買うか、みたいな流れで購入。Discordの身内鯖で配信しながらプレイを始めた数時間後、認識に異変が起こった。このゲームはヤバいぞ、と。

遅過ぎた前置き

f:id:y_tsukinari:20200204001317p:plain
いやこれ全員誰がどれでどうやって死んだか突き止めるの?無理では?(この絵には全員は写っていません)

この記事は「なんか面白いゲームないかな」くらいのライトな感情を抱くゲーマーに向けてこのゲームの素晴らしさを紹介するために書いた。元も子もない話ではあるが、ゲームに関する情報を常に仕入れているような人たちは既にこのゲームの存在を知っているだろうし、このジャンルが好きな人は評価の高さなどを見て購入しクリアまでしているだろう。推理ゲームの紹介である以上ある程度のネタバレを覚悟しなくてはならないと危惧する方も居るだろうが、プレイする楽しさを損なわせるような説明を行わないよう配慮するので信用して欲しい。

参考までに、筆者のプレイ時間は10時間ほどである。

このゲームは何か

f:id:y_tsukinari:20200204002721p:plain
テクニカル・マジック・マイ・コンパクト

プレイヤーは1800年代の保険調査官として、突如ファルマス港に現れた"オブラ・ディン号"の調査を行うことになる。5年前に数多の交易品と共に消息を絶った"オブラ・ディン号"の船体は損傷が酷く、船員と思われる死体があちこちに放置されているような惨状であった。調査にあたって、ヘンリー・エバンズという人物から託された不思議な懐中時計と手記を駆使し、失踪当時乗船していた60名の安否を推理することがこのゲームの目的となっている。

f:id:y_tsukinari:20200204001018p:plain
ワトソン あれを みろ!(本ゲームはエンディングまで一人で行動します)

ゲームを始めて早速オブラ・ディン号に乗船したプレイヤーを、白骨死体が無言で迎えてくれることだろう。この死体に託された懐中時計をかざすと「その人物が死ぬ瞬間」にまで時を遡り、様々なアングルで見ることが出来るのだ。死ぬ瞬間に立ち会うことでその人物の死因が判明するだろうし、死ぬ直前の会話(字幕付き原語フルボイス)などから時には思いもよらぬ真実を知ることになる。プレイヤーはこのように死体や残留思念を調べることで得られた情報を元に乗船員の「これは誰で、生存あるいは死んでおり、その死因は〇〇である」といった身元・安否情報を推理し、手記に書き込んでいくことで失踪当時オブラ・ディン号に何があったのかを突き止めていくのだ。

f:id:y_tsukinari:20200204003441p:plain
実質ポケモン図鑑

手記にはすべての乗船員が描かれたスケッチ(上の方で貼った画像)や乗船員リスト、船内図、オブラ・ディン号にて起こった事件などが記述されているのだが、このうち「オブラ・ディン号にて起こった事件」は死体を調べていくことで徐々に埋まるシステムとなっている。そのために最初に手記を受け取った段階では"何故この船が消息を絶つことになったのか"が何一つ分からない状態でゲームを始めることになるので、10分くらいは色々と心配になるだろう。これについては安心して欲しい。まず何も考えずにプレイすると突然滝のような情報量が一度に押し寄せることで逆に何から手を付けていいのかわからなくなると断言する。実際筆者はそうなった。消息を絶つかと思った。

f:id:y_tsukinari:20200204002725p:plainf:id:y_tsukinari:20200204002734p:plain
「くらえ ぴすとるびーむ」「ぐわー」

たとえばとある死体を調べることで追体験した映像から、銃を撃たれて死んだことがわかったとする。でもこの時点では、「死んだ人の名前」「銃を撃った人の名前」はわからない。プレイヤーはその死の間際で時間が止まった空間をくまなく注視することで得られる情報や手記にあるデータからこれらを推測する必要がある。時にはまさにその惨劇が起こっている場所から目を離して他の場所を注視することで「この人物はこの格好をしているからそれなりに高位の役職についてるのでは?」「会話に特定の言語が出てきたからこの映像の中の誰かはその言語圏の人が居るのだろう」といった些細だが重要な情報を集積し、論理を構築しなくてはならない。

システムや世界観の都合、船員は時に凄惨な死を迎えることになる。時にはグロテスクな表現を含むが、モノトーンで描かれたレトロなグラフィックが心理的ストレスを軽減することを助けている。ただし断末魔については声優がかなり迫真の演技をされている(しかも設定がデフォルトだと最大音量)ため、聞くのがかなり辛いものが存在するが、逆にあまりにも無様だったりギャグ的な死に方をする船員や、知らぬ間に死んでいた船員までおり、様々である。死はエンターテイメントなんだなぁ。

f:id:y_tsukinari:20200204004934p:plain

このゲームは過去に起こったことを追体験するというシステムの都合、調査することですべての事実が判明したとしても、これから先のストーリーが変わるといったことはない。だが調査に費やした時間や思考プロセスは、すべてを終えた後にはとても素敵な経験に変わっていることだろうと思う。最初のうちは船員同士の仲間割れ程度に思えていた数々の事件が、調査を進めていくことで突然妙な空気へと変わる、あの瞬間を共有したいのだ。この記事を見た人達にも是非プレイして欲しい。